若い世代を中心に需要が高まっている退職代行ですが、もしも退職代行を使われた場合、会社側としてはどのような対応をすればいいか分からない方は多いかもしれません。今回は、労働者に退職代行サービスを使われた場合、会社側が取るべき対応についてお話していきたいと思います。
労働者に退職代行を使われた理由は?
自分からは退職の旨を伝えにくいという場合、退職代行サービスは利用されます。
まずは、労働者に退職代行を使われた理由について見ていきましょう。
自分から退職を言い出しにくい劣悪な労働環境だから
パワハラや長時間労働、人手不足など、劣悪な労働環境で自分から退職を言い出しにくい場合、退職代行を利用します。
このようなケースでは、労働者は過剰なストレスを抱え心理的に萎縮してしまい、自分では退職できないと判断します。
「労働者に退職代行を使われた」という会社は、労働環境や職場の体制などを一度見直すことが大切です。
上司や人事に引き止められたから
退職の意思を伝えても上司や人事に聞き入れてもらえなかったり、無理な引き止めにあって辞められなかったりする場合、トラブルを防ぐために労働者は退職代行を利用するケースが多くあります。
退職を思いとどまるよう説得するだけであれば問題ありませんが、労働者の意思に反して無理に引き止めたり脅しをする「在職強要」は違法となります。
職場の人間関係に問題があったから
職場では多くの人と関わるため、複雑な人間関係に悩むケースは少なくありません。
上司・同僚との人間関係に問題があり、通常できるはずの退職の申し出ができずに退職代行を利用する労働者は増えています。
心身ともに追い詰められると、会社に出社しようとすると体調不良になったり、出社が難しくなったりとさまざまな問題が発生します。
有給休暇や未払い請求をするため
有給休暇の消化や未払い賃金・残業代の交渉をするため、弁護士が運営する退職代行サービスに依頼するケースです。
非弁の退職代行業者ができるのは「退職の意思表示の代行」のみです。
有給休暇は労働者に認められた正当な権利のため、法律上、労働者が有給休暇を請求したときには有給休暇を与えなければなりません。
退職代行を使われたときの会社側の対応
退職代行を使われた場合、会社側はどのような点を意識して対応すればいいのでしょうか?
ここからは、退職代行業者から連絡が来たときの対応について見ていきましょう。
退職代行の種類は3つ
労働者本人に代わって退職の意思を伝える「退職代行サービス」は、
・民間業者
・労働組合
・弁護士事務所
の3つに分かれ、弁護士でない者が労働者の代理人として交渉などの法律事務を行うと「非弁行為」となります。
弁護士以外の民間企業が運営する退職代行サービスで、非弁行為に当たる場合は退職代行を拒否することができます。
どの退職代行からの連絡かによって対応の仕方が異なるため、退職代行を使われた場合は、まず退職代行の身元を確認し、3つの形態のどれに該当するのかを明らかにしましょう。
「弁護士」による退職代行は冷静な対応が必要
「弁護士」は法律に基づいて退職代行を行うため、会社側も状況に合わせて冷静に対応することが大切です。
まず退職の申し入れが法律に基づいているかどうかを確認し、法律を順守している場合は、原則として労働者の退職を受け入れて手続きに進む必要があります。
問題がある場合は、弁護士を通して話し合いが可能です。
法律を順守している場合は退職を受け入れる
労働者には退職の自由があり、会社側もそれを阻止することは法律的にできません。
労働者が退職代行を利用して退職の意思表示をした場合、民法による規定や社内規則を確認し、法律を順守している場合は速やかに対応することが大切です。
退職届が届いたら、社内の手続きを進め、退職する労働者に退職が決まった旨を郵送やメールで伝えましょう。
従業員の本人確認を行う
ごく稀ではありますが、第三者がいたずらや嫌がらせをするために退職代行を使っている可能性があるため、弁護士以外の退職代行業者の場合は従業員本人の意思確認が必要です。
労働者本人からの依頼であることは事実か、契約書や本人証明の書類などの提示を求めることで、従業員本人からの依頼かどうか確認することができます。
退職代行から「本人に直接連絡することは避けてほしい」と言われても法的に強制力はありませんので、メールなどで退職の連絡が本人の意思に基づいて行われているか確認しましょう。
有給休暇を消化させる
有給休暇(年次有給休暇)は労働基準法で定められている労働者の権利であり、2019年4月より、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して年5日の有給休暇を取得させることが義務付けられています。
そのため、有給消化を取得できる権利がある従業員には有給消化を取らせなければ「法令違反」となります。
退職代行は2週間以上の有給休暇が残っている場合、未消化の有給休暇を使うことで、「実質即日退職」できるように手続きを求めることが一般的です。
従業員本人の勤務状況を確認し、有給休暇が残っている場合は有給休暇を与える必要があります。
従業員の雇用形態・希望の退職日を確認する
従業員の雇用形態についても確認します。
民法第627条では、無期雇用の場合、退職を申し出てから2週間後に退職できる旨が定められています。
有期雇用契約の場合は、原則として契約期間内に一方的に退職を申し出ることはできず、退職代行を使われたとしても意向に応じる必要はありません。
ただし、有期雇用契約であっても労働者がいじめやハラスメントを受けている、体調不良、家族の介護等やむを得ない事情がある場合は、従業員側から一方的に退職を告げることが可能です。
また、就業規則で「退職の1ヶ月前までに申し出ること」など定めている場合でも「法律」が優先されるため、速やかに対応しましょう。
労働者に退職届の送付を依頼する
退職が決定した場合、労働者本人から退職届を送付してもらう必要があります。
退職代行が退職届を送付してきた際は不備がないか確認します。
会社で所定の用紙を用意している場合はあらかじめ送付しておき、退職届が確認できたら、仕事用のパソコンやタブレット、スマートフォン、制服など貸与品等の返還依頼も行いましょう。
なぜ退職代行を使われたのか考えることも大切
退職代行を使われた場合、会社側は労働者が退職代行サービスを利用するに至った経緯を考えることも大切です。
パワハラやセクハラ、未払い残業代、過重労働といった問題はなかったか、一度検討・確認しましょう。
こうした経緯を把握しておくことで、再発防止のための対策を立てることができます。
また、退職代行サービスを利用した労働者に対して圧力をかけたり、拒否することで会社の印象が悪くなり、ほかの従業員に対しても悪い影響を与えてしまいます。
トラブルを防ぐためにも、労働者の意向をしっかりと聞き取り、問題があるときは速やかに対応することが大切です。
退職代行サービスを使われた場合は、退職を決意した経緯を見直すことも忘れないでください。