本当のところどうなのという皆様の疑問にお答えしていくブログです。
できればブログ内の動画の方をご覧ください。
弁護士の嵩原安三郎です。
今日はね、みなさんからリクエストを結構頂きました。退職代行から裁判になった、そんなケースをご紹介しようと思ってます。
僕らも長いこと退職代行やってますので、ほとんどの場合はね、会社の経営者が

損害賠償請求するぞ!
って言っても、話し合いで収まって、損害賠償請求なしで終わるってことがほとんどなんですけれども、でも中にはね、どうしても悔しいから

損害賠償請求するんだ!
っていう社長が、たまにいるんですね。

やっても無駄ですよ
って言うんですけれども、でも

いや俺にも意地がある!
なんて言って裁判を起こす。
今日ご紹介するケースもね、そんなケースのうちの一つです。
でね、この私達の依頼者を仮にAさんとしますね。
このAさん、店長さんです。
この会社、いくつか店舗を持っていて、そのうちの1つを任されたのが、このAさんなんですね。
Aさんすごい真面目で、このお店一生懸命回すんですけれども、それに対してこの社長

ありがとうAよ
お前のおかげでこの店舗よく回ってるわ
なんて言ってくれる人ではなくて

いや店長なんだから当たり前だろ、もっと働け
というタイプの社長だった。
しかもね、この…店長で勤めてんのにね、普通は正社員じゃないですか、店長なんだから。
なんですけども、1年間の期間雇用契約、有期雇用契約ね、それを延長するという形の店長だったんですね。
延長するって言ってもね、その時期が来たら、契約書ペロペロペロとサインさせるだけで、別にこの更新手続きというのをきちっと行ったわけじゃない。
ほぼ自動更新の、そんな有期雇用契約だったようです。
僕らが受任した時にはもう3年目位だったのかな。
そんなに長くはなかったですけれども、初めから店長として入ってきた方です。
でね…この…店長さんね、このAさんね、すごい頑張る人で、多少の病気では休まないんですけれども、やっぱりね、奥さんが病気になったんで

奥さんのお世話したい

もうほんと今日働けません…
熱がすごいあるんです…今日は休ませて下さい…
とかですね、自分自体も
というようなこともあったようですけれども、それをこの社長に言っても

何言ってんだ!
仕事と家族とどっちが大事なんだ!
仕事と自分の健康のどっちが大事なんだ!
すぐ出て来い!
というタイプの社長でした。
いや社長も忙しくしてるかって、そんなことなくて、社長は悠々自適で別に自分でお店を回したりするわけじゃないんですよ。
病気の時ぐらいね、自分が出てきてね、お店回したらいいと思うんだけど、そんなことはどうやらなかったみたい。
でね…一生懸命頑張ったんです、このAさんね。
Aさんがね、一生懸命頑張ったのは実は理由があるんです。
実はね、Aさん店長として入ってきたんだけども、その時から、実は新店舗、新しい店舗を作るという構想があったんですね。
このAさんが店長を始めて、もうすぐぐらいの時にはその構想は、どうやらあったようです。
このねAさん、この新店舗に異動するということが織り込んで働き始めたようなんですね。
Aさんね、この…新しい店舗、この場所にね、すごく色々と思い入れがあったようで

あそこで働けるんだったら…
ということで、一生懸命この辛い毎日を耐えておられたようなんです。
でもね、3年位頑張ったんですけど

もう無理…
と思ったんですね。
新店舗がね例えばあと半年後にできますとかいったら、我慢できたのかもしれないけれども、それもまあ…話は進んでるって社長は言うんだけども、なんか…あんまり…うまいこと進んでるような感じもないんですよね。
それで、家族と相談して

これはもう…続けられない
ということで退職を決意した。
よくね退職代行に対するね、なんか文句言う人で、よく言うのはね

退職ぐらい自分で言えよ
とよく言うんですけどもね、ほとんどの人は自分で言ってるんですよ。
このAさんも例外ではなく、自分で退職を言おうと思った。
しかもこのAさんはね、さすが店長を任されるだけあって、すごく頭の回転が早い。
しかも責任感のある人だったから、自分で言おう。
しかも、自分で言うだけではなく、これ多分…社長はこうやって断ってくるだろうな。
うん、だから…俺聞いてないとかって言いそうだな。
じゃあ仕方ない、内容証明郵便で送ろうと考えたんですね。
しかも内容証明郵便自分で色々調べて、「これなら大丈夫だ」っていう形を作って、会社に送った。
しかもですよ、この店長さん偉いのはね、もうしんどかったんですよ。
正直その時には病院に通ってて、病院から「今すぐ辞めろ」というような診断書が出るぐらい、そんな状態だったんだけども、このAさん

僕店長だし、頑張ってあと3ヵ月働くわ
と。
医者に止められてるんですよ。
でも「3ヵ月働くわ」と言って、内容証明郵便には「3ヵ月後の〇月〇日に辞めます」という風に書いて送ったんですね。
めちゃくちゃすごくないですか?
医者に止められて、そこから3ヵ月ですよ。すごいよAさん。
Aさんね、診断書も別途会社に送った。
内容証明郵便って実は、別の資料を一緒に同封して送ることはできないんで、診断書は別便で送ったそうです。
すごくないですか?
そこまできちっと調べてやったんですね。
それに対して社長

こんな状態だったのかAよ

ごめんな3ヵ月も頑張ってくれるんだったら、もう万々歳だ

わかった3ヵ月以内に新しい店長を探すから、ごめんな3ヵ月は頑張ってくれ
って言ってくれるような社長じゃなかったんですね。
なんと、弁護士雇って、Aさんに弁護士からの通知を送らせたんです。
しかもこの弁護士の通知…後で僕見るんですけども、もうむちゃくちゃ。
この弁護士から送られてきた通知を見ました。
そうすると、色々書いてあった。
まず第1点目

いやAさん、あなたの雇用契約は期間が決まっております
期間が決まっている人は、途中で辞められないんですよ
これは民法の628条に書いてありますよ
これがスタート。
2つ目

体調不良があるから辞めたいって言ってますよね。
でもね、あなたが言ってる体調不良って、仮病なんじゃないですか?
医者の診断書なんて、医者に嘘を言えば、医者なんてなんとでも診断書出します
まあ言い方もうちょっと丁寧ですよ。
だから

医者の診断書があるからって言って、あなた仮病なんだから、辞められないですよね
期間満了まで、まだまだあります
この前更新したばっかりだから、10ヶ月位あったかな
覚えてないですけども、それぐらいあるんだから、しっかり働けよ
3つ目

でねって、あなた3ヵ月後に辞めるって言ってるけど
3ヵ月経ってその日から来なくなったら、損害賠償請求するからな

期間が来て、辞めると言っても、損害賠償請求するわ。
なぜなら、新店舗、あんたがやるって言ってるこの新店舗、あなたが店長に行くはずのこの新店舗の話が頓挫するから、だから、その分の損害賠償請求もするぜ
とあったんですね。
それでもう「ダメだ…」と思ったAさんは、うちに依頼してきたんです。
それでその弁護士の通知を見ました、僕ね。
見て

いやいやいやいや…
と思いました。
だってさ…まあ診断書を見て仮病ってっていうのはまあ…どうかなと思ったけど、まあまあまあまあ、主張だからそれはいいさ。
でもね…3つ目おかしくないですか?
みなさん気付きました?
期間が決まってるから、その途中で辞めたらダメよ、そしたら損害賠償請求するぜ、まだ分かる理屈では。
期間が来て辞めても損害賠償請求するぜ
え?っていうことは、期間関係なくない?って話ですよ。
期間が決まっても、働く義務があるっていうのとおんなじでしょ?
それって期間が決まってない雇用契約じゃないですか、実質的に。
期間が決まってるのに期間で辞めるのもダメ、期間の途中でも辞めるのもダメ、矛盾しているんですよ、法的に。
いや~、そんなことよく書いたなと、こう思ったんですね。
確かね…このAさんね、僕に相談する前に、別の退職代行…弁護士以外の退職代行業者に相談したみたいですね。
ただその業者さんは、損害賠償請求があるっていう話を聞いて、「もう私たちは手に負えません」ということで断ったそうですね。
そこだけ聞くと「なるほどな」と思うんですけども、これ実はねカラクリがあって、弁護士以外の退職業者って、受任した後、自分がやった後も、損害賠償請求するって言うと、すぐ逃げ出すんですよ。
それはそうだ、仕方ないかもしれないけど、それをね、初め言わないの。
あたかも自分たちで何でもできます、弁護士監修です、顧問弁護士に相談します、何かあったら弁護士にバトンタッチ、顧問弁護士出てきてくれます、みたいなことを匂わせておいて、実際に損害賠償請求の話があると、すぐ逃げ出す。
こんな業者の話、山ほど聞きますから、まあ…そこを選ぶのも自由ですから、自己責任で選んでください。
それはちょっと話逸れたので置いておきますけれども、それでうちに相談があった。
その通知書を見て

ああ…この人むちゃくちゃやな
これ反論できるな
と思って、僕が書面作りました。
で、会社側にね向こうの弁護士側に送ったんですけれども、その中できちっと説明しておきました。
まず第1

何々先生と、これね、先生もご存じだと思いますけども、契約書に期間が来たら、契約書にサインするだけ、ほぼ自動更新です
ちゃんとした説明もしてません
こういうものって実質的に、期間がない雇用契約って認められる裁判例、結構ありますよね
だから、これもそうなんじゃないですか?
そうすると、退職意思を伝えて、2週間の期間が明ければ、いつでも辞められる、そんな条文、民法にありますよね
だから、3ヶ月もあけたんだったら、全然有効です
2つ目

先生が仰る通り、期間が決まっている雇用契約と仰るんであれば、診断書見たでしょ?
これが仮病だって言うんだったら、ちゃんと根拠出してください
根拠が出ないんだったら、お医者さんに対する失礼な言い方ですよ
医者は騙されるみたいなことを書いてますけども、そんなわけないでしょう
根拠あってきちっと言ってね
それがなければ、退職、完了しますよ3ヵ月後に
3つ目

損害賠償請求するって言うけれども、理屈が矛盾してるのって、ご自身でも分かってますよね。
そんなの私達、払うつもり一切ありません
ですから、3ヵ月後、こちらが指定した日までは一生懸命働くけれども、その日を最後にしますから、何かあったらどうぞそこまでに言ってください
ちなみに、3ヵ月も無理をして働くんだから、その間にまたパワハラみたいなのがあって、働けませんとなったら、いつ辞めるかわかりませんからね
慎重にやってくださいよ
と釘まで刺しました。
これちょっとだけ説明します。
みなさんご存じの方も、たくさんいらっしゃると思いますけども、雇用契約って、期間が決まってるやつと期間が決まってないやつで、大きく分けて2つあります。
期間が決まっていないやつは、普通は正社員って言ったりしますけども、無期雇用契約と言いますね。
期間が決まっていない雇用契約。
もう1つは有期雇用契約、期間が決まっている期間がある雇用契約なんですけれども、俗にね契約社員なんか言ったりしますけども、実は、雇用契約ってこの2つに大きく分けられる。
そして退職の場合はルールが決まってまして、期間が決まっていない無期雇用契約の場合は、「退職します」と言って2週間経過すると、退職の効果あり。
2週間の期間空ければですね、別に1ヵ月先でも2ヵ月先でも、この日退職しますと言えば、有効になると、これが…法律の在り方なんですね。
期間が決まっている場合は、この期間中は辞められませんよってルールがあるんですけども、例外がありまして、それでも

私働けない状態です
典型的なのは、病気ですよね。
そういう場合は、法律は、健康を害してまで働けとは言わないです。
だから、そういう場合は、期間途中でも辞められますよという、こういうルールになっているわけです。
期間が決まっていない雇用契約の場合の退職のルールは、民法627条1項。
期間が決まっている場合の退職ルールは、民法628条に記載があります。
この話を弁護士相手にきちっとしたわけですね。
さあ、それで…このケース、みなさんお聞きになって分かったと思いますけども、将棋で言えば王手飛車取り。
どっちの雇用契約だとしても、3ヵ月空けて指定すれば、辞められるんです。
診断書もあるしね。
別に627条1項だろうが、628条だろうが、どっちでもいい、このケースではね。
3ヵ月後には絶対辞められる状態だったわけです。
もし辞めさせたくないんだったら、向こう側の弁護士は、うちが仮病だという証拠をきちっと出して、かつ、これが、更新手続きもきちっとしてる、正当な有期雇用契約ですよっていうことを、どうぞ説明してくださいという…ことだったわけです。
しかし、待てど暮らせど、その説明は、きちっとしたものは出てきませんでした。
こっちが心配してた目立った実は…パワハラみたいなものですね、かなり心配したんですけど、それもなくてですね、淡々とですね、期は進んでいきまして、予定の退職日を迎えました。
その予定の退職までに、このAさん…引継事項いっぱい書いてですね、マニュアルもいっぱい作ってですね、すごいきちっと、もうこれ以上ないという形で、退職されました。
そうするとね、退職日から、本当にすぐ、訴状が届きました。
予想はしてましたけれども、早いなと思いました。
準備してたんでしょうね。
Aさんから

先生!訴状来ました~!
連絡あって

すぐ送って!
って言って、中身を開けてみると、なんとびっくり
請求額は…1,500万円でした。
これは流石にびっくりしましたね。
びっくりしたっていうのは、金額が大きいので「怖!」と思ったんじゃなくて、「いやいや、よくこんなん作るな…」という、ある意味感心だったんですね。
なぜかって言うと、僕が向こう側について、1,500万も請求できる理屈なんか、考えつかんと、こういうことなんですよ。
中身見ました。
事実関係について、でたらめというか嘘を書いてるというのは、まあそれはよしとしましょう。
よしとするってのは、それがいいって意味じゃなくて、まあみなさん、裁判ってね、所詮どっちか嘘ついているんです。
そうじゃなかったら、一致してたら、裁判にならないです。
だから証拠があるかないかとかいうのを、全部一応置いとくとしたら、基本はどっちかが嘘をついている。
どっちも嘘ついてるってケースもあるし、これはこっちが嘘、これはこっちが嘘というケースもあるけれども、どっちかが事実じゃないこと言ってなかったら、裁判ってなりませんからね。
どっちも本当言ってる裁判っていうのもないことはないけれども、基本的に裁判ってどっちか嘘つくので、これはどう立証するのかっていう話なので、それは置いておきましょう。
でも…問題は理屈なの。
1,500万どうやって積み重ねたんだろうと思って、見ていくとですね、まあ色々…書いてましたわ。
例えば、こんなのありました。
損害賠償請求する理屈ね

Aさんの雇用契約は期間が決まっている

この期間途中で勝手に辞めたんだから、辞めたと言って出勤しなくなった。
でもこれは辞められるわけじゃないので、出勤しなくなったことで発生した損害は全部Aに請求しますよ
うん

なるほどなるほど

でもAは、期間が来たからと言って責任を逃れるわけじゃない
その後新店舗に行くと言ってたんだから、責任は取れ
だから、新店舗に行かない退職するってのも通用しないぜ
期間が来たところで、通用しないぜ
だから、期間が来た後にも、Aには責任がある
損害賠償請求は、Aが期間の後、出勤しないことについても、損害賠償請求はするぜ
と言ってきたんですね。

むちゃくちゃだな
と思いましたけど、あとこんなのもあった。

病気で働けないと言ってるんだけども、それは全部嘘
仮病、診断書もあるって言うけど、それも全部嘘、仮病。だって、3ヵ月働いてるんだもん

いやいやいや…まあ働いてたけど…言ったじゃん
医者に止められてるけど、頑張って迷惑かけないように、残された…他の従業員さんが困らないように頑張るんです
でも途中で倒れたら、辞めるかもしれないので、できるだけ頑張ります
書いたじゃない!
それが嘘って言うんだったら、それはそれでもいいですわ
こっちが親切にやったことが、必ずしもいい結果にならないという典型例。
こういうのもあった

新店舗は、もう建物所有者とも話がついてて、工事も手配してる、内装工事なんだけどね
もう手配してて、もう着工寸前だった
その着工寸前で、店長で行くべきだったAが辞めるって言ったんで、全部キャンセルしました
だから、この計画にかかったお金は全部、Aに請求をします

ふーん…
こんなのもあった。

Aが新店舗に行く前に勤めてた別のこの支店ね、この支店
この支店、Aが急に辞めたんで、それで困ったのもあるんだけど、店長に次来る人がおらんかった
おらんかったんで、もうこの店閉めました
閉めたんで、閉めた責任は全部Aが負ってね

ふーん…
え?
じゃあ…Aが新店舗に行った後、この…元の支店って潰れちゃうんだ。
そしたらその責任Aが全部負うんだ。
ふーん…と思いながら読みました。
それで積み上げたってのが、1,500万ぐらいになるんですね。
あ!もう1個忘れてた。
こんなのも言ってた。この社長

自分のお店が出店するんだけども、自分は…それはコンサルタントとして活躍してる自分が奔走したんだから、コンサルタントの費用を払え
自分はコンサルタントやと。
だから、自分のとこが出店するわけですよ。
そんな感じだったかな。自分の店舗ですよ。まあいいや…
というようなことがあって、裁判スタート。
でね、こちらはね、診断書とかカルテとか、そういうものをまず提出しました。
あとはね、社長が…色々言ってる暴言なんか、これ録音してたんでね、それを、反訳って文字起こししたものを、録音と一緒に提出しました。
あとはね、この新店舗…出店する建物あるじゃないですか。
そこの所有者にも話を聞きに行きましたね。
そうするとね、これびっくりしたんですけど、具体的な話進んでなかったんですって。
むしろトラブルになってて、「いやもう契約したくない」みたいな話も出てたそうで、実際に、この新店舗出店計画ってのは、ほぼ頓挫状態だったそうです。
Aさんが辞めないって言って、新店舗に行くって言ったら、逆にたちまち困ってた、そんな状態だったようですね。
これ流石に僕もびっくりしましたけどね。
会社側からはですね、大した証拠出てこなかったんですけども、残った従業員の陳述書みたいなもの出てきましたね。
中身でたらめで、実はそれに対する反論っていうのもできるような状態だったんで、詳しく言いませんけども、Aさんの悪口いっぱい書いてましたわ。
あとこの社長自身の、陳述書出てきた。
これもね、色々書いてあって

Aは嘘吐きで信用するに足らん、嫌な従業員でした
みたいなこと書いてあるわけですよ。
そんなん出てきた。
まあだから、正直支離滅裂なものが、たくさん出てきたって感じですかね。
そんなこんなで実は、もう次から次へと、色んな主張が出てきてて…同じことの繰り返しなんですよ。
出てきたんで、それに対する反論しないといけないってことで、もう2年ぐらい…裁判あっという間に経過してしまいました。
珍しいです。
数年かかる裁判というのはあります。
それ実はあるんですけども、中身がこんにない裁判って、2年もかかるのかよ…と思いながらやってました。
ならね、うちの依頼者もね、やっぱしんどいんですよ。
だから、どうしようかと思った時に、裁判所から

和解の話し合いしない?。
って連絡があった。
これはね、普通の手続きなんです。
裁判所って、お互いの主張が煮詰まってきた時に、「和解しません?」って話をするんでね、話聞きましたけども、まあ結構向こうは強気でね、自分のところの…請求額を下げないようなことを言ってきたんで、「これは無理だな」と。
裁判官もね、大分宥めてくれたんだけどね、僕もね、でも「これは無理だな」ということで、そのまま証人尋問しようってことで尋問に進みました。
証人っていっても誰出すか?
結局ね、Aさんと、社長だけの、尋問を行うということになりました。
みなさん裁判の証人尋問って、ドラマなんかで見たことあるかもしれないけども、まずねこっち側から、要するに味方側からね、質問して、相手の弁護士が、反対尋問をするという風に進むんだけども
こちらは、Aさんに対しては、まず僕が聞きます。
僕の質問が終わった後に、今度は反対尋問で、相手の弁護士が聞く。
Aさんに意地悪な質問をする。
今度は逆ね、社長の場合は逆になって、まず相手の弁護士が社長に色々聞いていって、こちらが反対尋問でいって、社長に意地悪な質問をすると、こういうことをするわけですね。
Aさんの尋問は、つつがなく、特に問題なく終わりました。
こちらの想定通りの答えをしてもらい、相手の弁護士の反対尋問も、色々こう言うんじゃない?
と準備してたんだけども、まあまあ全然そこに届かないような、通り一遍のことを言って、通り一遍にこっちが返して終わるみたいな、本当に何もなく終わったんですね。
今度社長の尋問になりました。
ここからが本番ね。
相手の弁護士が、社長に、色々聞くわけです。
元々予定してた内容を聞くわけですから、その時はこの社長、余裕があった。

そうですね、Aはとんでもない奴でしたよ
とか

仮病じゃないですか?
みたいな話をするわけですね。かなり余裕がある話し方でしたね。
さあそれで…僕からのね、社長に対する証人尋問になりました。
まあこちらから、色々準備してましたね。
退職に至る経緯なんか、色々細かい点を聞きながら、やってたわけですね。
それもこちらの想定通り、うまく話を引き出したんですね。
いよいよ、一番問題となっている、体調不良があったかどうか。
体調不良があるということになれば、有期雇用契約の場合でも、退職は有効になりますので、ここは結構大きな争点だったんですね。
それを最後に取っておいたんです。
僕からこの社長に聞きます。社長のことを仮にCさんと呼びますね

Cさん、あなたによれば、Aさんは、診断書出してるけども、仮病とこういうことでしたよね

ああ、仮病に決まってる

ふーん…そうなんですか。
ところでCさんあなた…医師免許をお持ちでしたっけ?

いや、持っているわけないやん

ふーん…
これ依頼者から診断書出してますけれども、その診断書持って、誰かお医者さんに相談したと思うんですけれども、その相談したお医者さんの、お名前と務めてる病院名教えてもらえますか?

いやいや、そんなん相談してって、なんで相談しなあかんの

あのねこれ…提出した診断書なんですけれども、この診断書ほらここに…何々っていう診断名出てるじゃないですか
ちょっとCさんに聞きたいんですけれども、この病気って、どんな病気なのか、教えてもらえません?
具体的な症状とか、どんな時に発症するとか、Cさんの知識を教えてください

俺医者じゃないんだから、そんなアホなこと聞かんといてくれ
知ってるわけないやんか

じゃあ、仮病と、本当の病気、どうやって判断するか、医学的な見地、それを教えてもらえますか?

いや…俺言ってるやん
医者じゃないから、そんなこと分かるわけないやんか

ほう?
そうすると、こういうことですね。
あなたは医者でもないし、医者に相談したわけでもない、自分で調べて明確な根拠があるわけでもない
っていうことはCさん、仮病仮病って言ってますけれども、それってあなたの感想ですよね
そうするとね、このCさん、根は真面目なのかな、反論はせずに、「う~ん…」って下俯いて、真っ赤になってこう…震えながら下俯いてました。
裁判官も、ジーっとこの…Cさんの様子を見てるんですね。
「よし!ここだ!」と思って

あのねCさん、さっきCさんね、Aさんの証人尋問聞いてたでしょ?
そしたらAさんこう言ってましたよね
『いつもあなたは根拠なく、自分を責めるんだ。それで私すごく困ってました』
Aさん言ってました、それあなた聞いてましたよね
この裁判官の前で話してる、この時ですら、あなたは根拠なく、Aさんのことを仮病と言っていた
普段から、根拠ない話をされてたんですよね?
何か反論があったらお願いします!反論ないんですね
では裁判官、これで証人尋問終わります
と言って終わりました。
この時ね、ぶっちゃけもう、「これはもう間違いなく勝ちだな」と思いました。
で!1ヵ月だったかな、明けて判決がありました。
判決

原告の請求を、全て、棄却する
棄却っていうのはね、請求を認めないってことですから、つまり、損害賠償請求を全部、裁判所が排除してくれた。
中身読みましたけど、正直、うちが言った通りのものだけが、ずらっと並んで、原告の請求、相手の請求はもう、全部、排除。
細かい点も含めてね、完全勝利ですよ。
ただね、完全勝利っていいところもあるんですけど、あまりにも勝ちすぎると、向こうがね

もうこれはもう…絶対控訴する!
って意地になるケースがあって、「これも控訴あるな…」と思ってたんですけど、
結局、判決出てから14日間、控訴期間、過ぎても、何もなく、そのまま、この請求棄却という裁判は、確定いたしました。
おそらく弁護士にも言われたんだと思います。
「これ以上戦っても、流石に無理」
そこはこの弁護士、言ってくれたんでしょうね。
この社長、Cさん、今どうしてるんでしょうね。
意地になるところはあったんですけども、それでもやはり、店舗を数店舗、展開できるような、そんな経営手腕を持ってたわけですから、Aさんに対する、恨みつらみではなくて、

ああこういう場合はこうなるんだな…
ということを学んでもらって、きちっと従業員は、法律通り守ってあげないと、結局、経営に返ってくるんだなということを学んでもらって、そしてそれを経営に活かしてもらって、
としてもらったら、嬉しいなと思いますけども、どうなったかは分かりません。
今日はですね、退職代行から、裁判になった、そして完全勝利した、という事案を紹介しました。
私達他にも、裁判事例いっぱいありますので、また機会があれば、ご紹介したいと思います。
それではまた次の動画で、お会いしましょう。
さよなら!