弁護士による円満退職代行 フォーゲル綜合法律事務所

パワハラ防止法を分かりやすく解説!

職場でのイジメ、嫌がらせなどのパワーハラスメント(パワハラ)の防止を会社に義務づける改正労働施策総合推進法、
いわゆる「パワハラ防止法」がいよいよ今年6月1日に施行されました。
併せて男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の改正もなされ、「セクハラ」「マタハラ(マタニティハラスメント)」
「育ハラ(育児休業ハラスメント)」の防止策の強化も求められています。

今回の「パワハラ防止法」で何が変わったのですか?

  • はじめて法律で「パワハラ」が定義されると同時に、事業主は「パワハラ」に対する適切な準備・対応が義務づけられました。

    実はこれまで「セクハラ」等については法律で事業主に防止義務が定められていましたが、「パワハラ」については法律でそのような義務が明示されていなかったのです。
    今回の「パワハラ防止法」はそのようなアンバランスを解消し、事業主に「パワハラ」に対する適切な対応・措置を義務化したものです。

「パワハラ防止法」はいつからスタートするのですか?

  • 大企業では2020年6月1日にスタートしており、中小企業も2年後の2022年6月1日にスタートします。

    大企業は2020年6月1日から「パワハラに対する適切な準備、対応措置」が義務化されました。
    ただ、それ以外の中小企業は2年後の2022年6月1日からのスタートになります。
    但し、「パワハラ裁判」では中小企業についても「パワハラ防止法」上の義務にとりくんでいるかを事情の一つとして判断される可能性が高いと考えられます。

どのようなものが「パワハラ」に当たるのですか?

  • 法律上は、3つの条件が必要とされています。

    法律では「パワハラ」を以下の3つの条件を満たすものであると定められました。

    (1)優越的な関係を背景とした言動であること
    (2)業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
    (3)労働者の就業環境が害されること

パワハラの具体例を教えて下さい。

  • 厚生労働省のガイドラインでは以下のような例が挙げられています。

    厚生労働省のガイドラインで指摘される「パワハラの例」(カッコ内は私の補足説明です)をみますと、典型的なパワハラである「暴行」「暴言」だけでなく、「集団での無視」「個人情報の暴露」など、かなり広い範囲で「パワハラ」が認められていることが分かります。
    あなたはこのようなことはされていませんか?

    ・殴打、足蹴り、物の投げつけ(当たらなくても該当します)
    人格を否定する言動(「イジっているだけ」「冗談」は通用しません)
    ・必要以上に長時間の厳しい叱責を繰り返す(感情的になった叱責はOUTです)
    他の社員の前で大声での叱責を繰り返し行う、叱責メールを一斉送信する
    ・合理的理由なく仕事から外したり個室に隔離したり、自宅研修させたりする
    ・集団で無視し、孤立させる
    ・長時間、過酷な環境下での勤務に直接関係ない作業を命じる
    ・新人に適切な教育をしないまま到底対応できないレベルの目標を課し、達成できなかったことを厳しく叱責する
    ・業務とは関係ない私的な雑用を強制する
    ・管理職の労働者を退職させようとして誰でもできる業務を敢えて命じる
    嫌がらせのために仕事を与えない
    職場外の行動を監視したり、私物の写真撮影をしたりする
    極めて私的な機微情報(性的指向、不妊治療等)を第三者に暴露する  など

上司から部下へのものだけがパワハラなのですか?

  • 同僚や部下からのパワハラもあり得ます。

    上司など明確に「地位が上」の場合は当然ですが、同僚や部下でも「実際の優越的な関係」があればパワハラとなり得ます。
    例えば以下のような場合は上司からでなくても「パワハラ」となり得ます。

    営業成績がよい同僚から営業成績が低い同僚への言動
    ・業務上必要な知識や経験を有し、業務遂行に協力してもらわなければならない部下がいる場合、その部下からの言動
    ・経験が豊富なため事実上のリーダーとしてふるまう同僚からの言動

上司から大声で長時間叱責を受けました。上司は「指導しただけだ」といいますが、「指導」ならパワハラには当たらないのでしょうか?

  • 「指導」といえばパワハラにならないわけではありません。内容と程度によります。

    確かに業務上、上司からの「指導」は必要です。そのため、客観的に業務上必要で相当な範囲で行う指導はパワハラに当たりません。
    しかし、感情的に叱りつける大声で怒鳴るなどの行為は、例えば命に関わる危険な行為やけがをしてしまうような危険な行為を即座に絶対に止めさせるために必要であったという特殊なケースでなければ、通常は「業務上必要」とはいえないケースがほとんどではないでしょうか。
    また、業務内容の指導にとどまらず、「だからお前はだめなんだ」「給料泥棒だ」などは単なる人格非難であり、「指導」とは評価されず、パワハラに該当するといえます。
    更に、指導は直接本人にすればいいのですから、本人を叱責する内容を本人以外の社員に一斉メールで送ったような場合には「相当な行為」とはいえないのが通常でしょうし、敢えて他の社員の前で叱りつけるような行為も「相当な行為」といえないケースが多いと考えられますので、そのような行為もパワハラに該当する可能性が高いといえます。

事業主はどのような「義務」があるのですか?

  • 事業主は大きく分けて「パワハラ防止のための事前準備」「パワハラ相談体制の整備」「パワハラ発生後の適切・迅速な対応」「パワハラ被害者等への適切な保護」が義務づけられます。

    「パワハラが発生したときに適切に対応する」ことは当然として、それ以外も事前準備等の義務があります。
    4つに分けて説明します。
    あなたの会社はいくつクリアしていますか?

    (1)パワハラについての方針等の明示、労働者への周知・啓発
    就業規則や「パワハラ指針」などでパワハラを禁止する条項等を会社で定め、パワハラ発生を防止するための研修等を行って労働者へ周知・啓発すること等が求められます。
    (2)相談体制の整備
    パワハラに関する相談に応じる窓口を設置するなどの体制の整備が必要となります。
    (3)パワハラ発生時の迅速・適切な対応
    実際にパワハラが発生したときに適切に調査し、被害者の保護、加害者に対する措置、再発防止などを行う義務です。
    「適切に」対応するだけでなく、「迅速に」対応することも求められています。

    (4)被害者等への保護
    被害者等のプライバシーの保護はもちろん、相談したこと等を理由とした不利益取り扱いが禁止されています。

事業主が上記「パワハラ対応の義務」に違反したときの罰則はありますか?

  • 罰則はありませんが、行政指導を受けたり、名前が公表されたりする可能性があります。また、民事上の責任(損害賠償義務)が生じることもあります。

    現時点では「義務違反」に対する罰則(懲役刑や罰金等)はありません。
    しかし、厚生労働省から行政指導(改善指導)を受けたり、企業名が公表されたりする可能性があります。
    また、義務に違反した事業主や役員個人が、実際にパワハラを行った加害者とともに「損害賠償責任」を負うことがあります。

パワハラ自体には罰則はないのですか?

  • パワハラの内容によっては刑事罰を受ける可能性もあります。

    「パワハラ」全体について罰則が用意されているわけではありませんが、パワハラの内容によっては、「パワハラを行った者」に刑事罰がある可能性があります。
    具体的には以下のようなものがあります。

    物の投げつけ、身体への暴力:暴行罪
    怪我をさせる:傷害罪
    暴言:名誉毀損罪、侮辱罪

事業主がしてはいけない「不利益取り扱い」とはどのようなものですか?

  • 「解雇」は当然ですが、「契約更新しないこと」「降格」「減給」「不当な評価」「派遣切り」なども禁止されています。

    パワハラを相談したり、パワハラの目撃者として協力したりしたことを理由として、解雇したり、契約更新をしなかったり、降格したり、減給したり、賞与や昇進への評価を下げたり、望まない配置転換したり、派遣の場合に派遣切りをしたり、そのほか労働者に対して不利益な措置をすることは禁止されています。
    なお、実際には「パワハラの相談をしたこと」「パワハラ目撃者として協力したこと」を理由にして「解雇」「降格」「減給」等をしたと公言する事業主はあまりいないと考えられ、事業主は「別の理由がある」と主張すると思います。
    しかし、裁判になった場合、「全く偶然に同じタイミングになっただけで、パワハラとは全く無関係」と事業主が裁判官に納得させる必要があり(「全く偶然」と裁判官に認めさせるのはけっこうハードルが高いです)、それができなければ「不利益取り扱い」と認定されることになります。
    「不利益取り扱い」をした場合には、その措置は無効となるのが通常です。